今回は、退職代行や退職と損害賠償について解説していきます。
- 「退職したら損害賠償だ!」と会社に言われてしまった
- 退職を会社に反対されているけれど、それでも辞めたら損害賠償を請求される?
- 「勝手に辞めたら損害賠償」は脅し?それとも本気?
- 退職代行を使って辞めたら損害賠償で裁判になる?
こんな疑問にお答えしていきます。
また、「勝手に辞めた従業員に対して、損害賠償は請求できるのか?」と気になる雇用者の方も、参考にご覧ください。
「辞めたら損害賠償」は本当に可能なのか?
まず最初に、「辞めたら損害賠償」は本当に可能なのか確認してみましょう。
「気に入らないから」だけではダメ!損害賠償請求のルール
ご存知ない方も多いかもしれませんが、損害賠償には、請求できる条件やルールがあります。
「気に入らないから」といった気持ちだけで自由に請求できるものではありません。
損害賠償には、大きく分けると「債務不履行による損害賠償(民法415条以下)」と、「不法行為に基づく損害賠償(民法709条)」の2つがあります。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法 | e-Gov法令検索
このように、損害賠償のルールは法律に定められています。
ですので、「勝手に辞められて会社に損害が出たから損害賠償だ!」と言われても、それが正当な請求として認められるとは限りません。
どんな場合でも、損害賠償は、法律などのルールに則って行う必要があるためです。
退職が理由で損害賠償?実際にあった「ケイズインターナショナル事件」
では、「退職トラブルで、辞めた人が損害賠償を払うことになった」という事例は無いのでしょうか?
調べてみたところ、こうした事例も確かにあったようです。
「ケイズインターナショナル事件」(東京地裁平成4年9月30日判決)
退職により退職者に対する損害賠償が認められた事件として、「ケイズインターナショナル」事件があります。
事件名:損害賠償請求事件
いわゆる事件名:ケイズインターナショナル事件
争点:
事案概要:室内装飾等を目的とする会社に入社した労働者が突然退社したことにより損害を被った会社が、右の元社員との間で合意したとする二〇〇万円の損害賠償の支払を求めた事例。
引用:労働基準判例検索-全情報
この事件では、「雇用契約上の債務不履行」として、辞めた人に対する損害賠償の請求が認められています。
ただし、会社の言い値で損害賠償額が決まったわけではありません。
会社の言い分よりも少ない、一部の支払いだけが命じられました。
事例があるからといって、「辞めたら損害賠償」が正しいとは限らない
ここで重要なのは、事例があるからといって、「辞めたら損害賠償」が正しいとは限らない点です。
ケイズインターナショナル事件では一部の損害賠償が認められましたが、だからといって、あなたの会社、あなたの場合でも同じ判断になるわけではありません。
損害賠償が請求できるか、いくらの損害賠償が認められるかは、事例によって異なります。
「辞めたら損害賠償」は“ただの脅し”と言える理由
現実的に考えると、「辞めたら損害賠償」は、実際にはただの脅しにしかならないケースが多いでしょう。
その理由は、大きくわけて3つあります。
- 「職業選択の自由」がある
- 損害賠償請求にはルールがある
- 実際に裁判を起こすと、訴訟費用で採算が合わない
順番に解説していきます。
「職業選択の自由」がある
まず大前提として、日本国憲法には「職業選択の自由」が定められているからです。
【日本国憲法 第22条(居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由)】
第22条何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
引用:憲法条文・重要文書 | 日本国憲法の誕生
職業選択の自由には、「今の仕事を辞める自由」も含まれます。
そのため相当な理由がなければ、ただ単に退職したからといって損害賠償請求が認められるとは考えにくいでしょう。
損害賠償請求にはルールがある
先ほども解説した通り、損害賠償は、好き勝手にいくらでも請求できるものではありません。
法律や判例にもとづくルールがあります。
そのため、実際に損害賠償を請求する場合、綿密な訴訟戦略が必要になります。
そうした検討と戦略を立ててまで、「辞めたら損害賠償だ!」と言っている会社は、現実にはほとんど無いでしょう。
実際に裁判を起こすと、訴訟費用で採算が合わない
もっとも現実的な理由として、訴訟コストがあります。
損害賠償を請求するとなると、民事訴訟は避けられません。
そうなれば訴えを起こす会社側も、大変な訴訟費用が必要になります。
いち従業員の退職をめぐって、大掛かりな裁判を起こしていたのでは、まるで採算が合わないのが現実です。
こうした理由から、「辞めたら損害賠償」は、ほとんどの場合、ただの脅しだと言えるでしょう。
会社と揉めていても、安心して円満退職するために
「辞めたら損害賠償」は、現実的にはほとんどの場合、ただの脅しです。
とはいえ、やはり可能性がゼロではない以上、心配ですよね。
なにより、「退職したいのに損害賠償をチラつかされて退職できない…」といった状況は、一日も早く脱出したいもの。
そこでオススメなのが、退職代行です。
円満退職に、退職代行がオススメな理由
退職代行は、いわば退職のプロとも呼べるサービスです。
そうした退職のプロが、あなたと会社の間に入ることで、円満な退職を実現しやすくなります。
どんなトラブルでもそうですが、間に冷静な第三者が入ることで、お互いに感情的にならずに冷静に解決できることはたくさんあります。
さらに退職代行には、弁護士など法律専門家の付いているサービスもあります。
たいていの場合、会社側も、弁護士と本気で争うことまでは考えていません。
「辞めたら損害賠償」というのも、あなたが法律の専門家ではないので、「損害賠償と言っておけば脅しになるだろう」と足元を見られている可能性もあります。
そのため実際に、弁護士や退職代行サービスなどのプロが出てくると、とたんに態度を変えて、退職に協力的になる会社がほとんどです。
退職代行を使っても損害賠償を請求されない?
退職代行を使って退職しても、損害賠償を請求される恐れはありません。
損害賠償の請求には、法律に基づくルールがあります。
- 民法709条に基づく不法行為
- 民法415条に基づく債務不履行
この2つです。
原則として、退職代行を使って辞めることは不法行為ではないため、民法709条には当該しません。
債務不履行にも当たらないため、民法415条にも当該しません。
つまり、損害賠償が認められる2つのケースのうち、どちらにも当てはまらないと考えられます。
そのため、もし会社が損害賠償請求訴訟を起こしたとしても、裁判所で却下されて、門前払いになるだけでしょう。
退職代行を使ったほうが、損害賠償を防ぎやすい
むしろ逆に、退職代行を使ったほうが、損害賠償請求を防ぎやすいと言えます。
退職代行は、「適正な退職の手続き」を、退職のプロが代行・サポートしてくれるサービスです。
そのため、自分で辞めるよりも、損害賠償のリスクは低くなると言えます。
プロの代行とサポートによる適切な退職ですから、会社側は、損害賠償を請求したくてもできなくなります。
辞めた社員・従業員に損害賠償!と考えている会社の方へ
ここで、
- 「勝手に辞めた社員に損害賠償を請求しよう」
- 「退職代行で辞めた従業員から損害賠償を取りたい!」
と考えている会社の方に、アドバイスをお届けします。
損害賠償は、法律や判例に基づくルールがあります。
それに則っていなければ、ただの不当請求です。
- 「迷惑だと思った」
- 「気に入らない」
など、気持ちだけで好き勝手に請求はできません。
本当に損害賠償を請求できるケースなのか、まずは弁護士に相談してください。
また、もし会社側にパワハラやセクハラ、労働基準法違反、残業代の未払いなど重大なコンプライアンス違反があった場合、逆に会社側が不法行為に問われる恐れもあります。
退職した社員から損害賠償を取ろうと躍起になる前に、自社のコンプライアンスをしっかりと、冷静に見つめ直すことをオススメします。
損害賠償は法律の問題!かならず専門家に相談を
損害賠償は、請求する側も、請求される側も、どちらも法律の問題です。かならず専門家に相談してください。
「辞めたら損害賠償」と言われている場合、たいていは脅しに過ぎません。ですから、そう心配しなくても良いでしょう。
ですが、それでも万が一…と不安な場合は、弁護士のいる退職代行サービスに無料相談してみてください。
24時間365日、いつでも無料ですぐ相談できる退職代行もたくさんあります。
自分ひとりで悩むのではなく、プロの力を借りるのが、一番の大正解です。